第一話 はじまり

「こ、この…!」 リンの杖は綺麗な放物線を描くようにして振られ、男に向けられた。 その途端、杖先から凄まじい火の塊が飛び出し、空を切り、男に向かう。 しかし、男はそれをサッとかわし、薄笑いを浮かべた。 そして、リンに向かっておもむろに杖を構える。 「やば……」 リンは慌てて木の陰に向かおうとしたが、時すでに遅し。 男が放った稲妻のような光線は容赦なくリンを襲う。 「っ…!」 リンは恐怖におののき、思わず目を閉じた。 「…あれ?」 目を開けると文字通り間一髪の所に白い壁のようなものが出来ていて、光線を吸収している。 事態が飲み込めず、男の方を見ると、既に突風の魔法で吹き飛ばされた後だった。 「だから、一人じゃ無理だって言ったろ?」 紫色の髪…ウェインが溜息をつきながらリンに近付く。 「だって…新しい魔法も買ったのに…」 リンは安堵と含羞、そして情けなさの入り交じったような気持ちで、微かに頬を膨らませる。 ウェインはそれを見て、優しく微笑んだ。 「まだ使いこなせてないだけだよ…」 リンの杖が異様な光を放っている。 それには誰も気がつかない。 「む〜偉そうに」 「…ほら、そろそろ行くぞ」 ウェインは未だに座っているリンに向かって手を差し出す。 「うん!あっ……」 はにかみながらも手を繋いだリンの顔は、一瞬にして青ざめた。 「腰が抜けて歩けない」 「馬鹿だ、馬鹿がいる」 「おぶって?」 リンは上目遣いにウェインを見つめる。 綺麗な瞳の下には微かに傷が出来ていた。 「しょうがないな」 そう呟いたウェインはリンに近付き、杖を一振りした。 その途端、目の下の傷が癒え、リンの体が座った格好のまま宙に浮く。 「わわわ」 「ほら、行くぞ」 「凄い…私って飛べたんだ」 「馬鹿だ、馬鹿がいる」 ウェインは言下に言い捨てる。 二人の間を優しい風が通り抜けた。 「出発!」 そう言って二人は町に向かって進み出した。 道すがら、リンはウェインの肩をつつく。 「ねえ、これ周りから見たらかなり変な光景じゃない?」 「え?そうか?」 「なんか私…空に浮かぶ仙人みたい」 「はははは。それ傑作」 「もういい!下ろして!!というか下ろせ〜」 「やだね」 物語はこうして始まる。
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