僕は今、二人の少年少女−−とは言ってもどちらも五歳くらいだと思われる−−が海を背景に何か話をしているのを見ている。
「たぁくん。」
「何?」
「これ……」
そう言って少女は頭に付けている花柄のリボンを外す。
そして「えい!」と可愛らしい(断じてロリではない。)声をだしてそのリボンの端を破−−けない。
「ごめんね、たぁくん。さいごのおねがい。これをちょっとだけちぎって。」
「うん。わかった。」
この少年……幼い人の僕は、理由も聞かずにそのリボンを破く。
「これでいい?」
「うん。それじゃおおきいほうあげる。」
「え?いいの?」
「うん。またあったときにわたしがたぁくんだってわかるように。」
「わかった。それじゃあ、はい。」
幼い頃の僕は、小さい方のリボン……とはもう呼べないものを彼女に渡す。
「−−!!早くしなさい!!船が出るわよ!!」
遠く−−とは言ってもたかが十数メートル程の所に止まっている船の入口に立っている女性が女の子を呼ぶ。
台詞の一部は船の汽笛にかき消されたが、彼女の本名だったと思う。
「もうじかんみたい。」
そう言って少女は、船と共に待つ女性の元へ走って行こうとする。
「リボンちゃん、まって!!」
僕は最後の−−今の僕からすれば何度も何度も聞いた言葉を発する。
ちなみにリボンちゃんと言うのは、僕が幼い頃に呼んでいた彼女の呼び方だ。
……我ながら恥ずかしい。
彼女は僕の言葉に反応してからか、歩み始めた足を止めこちらを振り返る。
「もしぼくが、ポケモンリーグでゆうしょうしたら、ぜったい、ぜぇったい、むかえにいくから、リボンちゃんも、ぜったい、ぜぇったい、まっててね!」
叫んでいるせいか、言葉が途切れ途切れだ。
「うん!!じゃあね!!」
彼女はニコッと笑って母の待つ方へタッタッタッと走って行く。
「やくそくだからね!」
そしてだんだんと走る音が消えていき……
僕は目を覚ます。
「はぁ……」
これで何度目何だろうか。
初めてこの夢を見たのは二ヶ月位前か。
それからはほぼ毎日、開いても二日のペースでその夢を見させられ続けている。
何かが起こる前兆か何かでないことを祈りながら、僕は洗面所に顔を洗いに行くのだった。