第一風
真っ赤な,真っ赤な空が見える.
今日も夕焼けが綺麗だなあと思いながらふと後ろを向くと,
いつもと違う光景が広がっていた.
第一風:風が告げる始まりの兆
???「またこれか…」
よいしょ,と起き上がる.視界に入ったのは「サンドラ王国の歴史」….
また読みながら寝ちゃったのか…
この夢を何度見たことか.
燃えている城,逃げ惑う人々.
そして…攻めてくる影の大軍.
???「どうじゃ.何か思い出したか,タキ?随分とうなされていたが…」
タキ「同じだよ,ゲン爺.4年前と何にも変わんない.」
ゲン「そうか…もう無理なのかもしれんのう…」
タキ「……」
ゲン「そうじゃ,あれは覚えられたか?」
タキ「もう何百度読まされたことか…大体のことはね. ただ…」
ゲン「なんじゃ?」
タキ「最終章が無いのはどうしてなの?」
この質問を何度繰り返した事か…返事は予想がつく.
ゲン「それでいいんじゃよ,それで…」
やっぱり…いっつもこれだ.
タキ「いい加減教えてくれてもいいんじゃないの?」
ゲン「時期はまだ早い…それより,行くんじゃろ?丘に…」
タキ「あ,もうこんな時間なんだ…じゃ,一時間ぐらいで帰ってくるから.」
僕は,この山小屋で,ゲン爺と共に暮らしている.ゲン爺の事は何も知らない.
空は夢で見たような色で染まっている.もちろん,城は燃えていない.
風が気持ちいい…やっぱりここの景色はいい眺めだ…
ゲン爺から常に身につけていろと言われているあの歴史書をおいて,大きく伸びをする.
夕焼けに照らされて,右の手は広く影をおとすが,左の手は小さい影しかおとしていない.
自分には人と違うところが3つある.といっても,今知っている人はゲン爺だけだが.
1つは左手が使えない.腕は動くけれど拳が開かない.ずっと何かを握り締めている様な感じで.
開こうと思うと痛みが伴う.開くことはもう諦めているけど.
2つ目は…記憶が無い.4年前,「闇の大進行」があった直後,ゲン爺にあの小屋で助けられ,意識をとり戻す以前の事をまったく覚えてない.
唯一覚えていたのは自分の名前のみ.思い出そうとすると,今度は頭に激痛がはしる.
絶対に…何か,大切な事を忘れているような気がしてならない…
そして,3つ目.
タキ(何か・・・異変でもあった?)
???(いや…いつも通り.魔界に連れられてる人の数も一向に減ってない.)
こんなことを言ったら馬鹿にされるだろうけれど…
………「風」と会話ができる.
というより,意思疎通ができる.
タキ(そう…ありがとう.)
いつも通り,か…
このままじゃ,いつ僕らが見つかってもおかしくないんだよね…
サンドラ王国.
人と自然とが織り成す,国土も広く素晴らしい王国.
…それゆえに,闇が最も欲する国でもある.
その闇の軍に最も効果があるとされている武器が…「8つの指輪」
初代王が闇に対しての備えから作ったとされている.
何度となく魔界から闇の軍が侵攻してくるなかで,その度に王国はそれを退けてきた.
4年前までは.
4年前,7大魔王の内の一人(?)が本格的に攻め込んできた.
当時の王はよく言えば律義者.悪く言えば…人を疑わない.
そこが狙い目だったらしい.
「魔王自身」が化けてその王に取り入り,まんまと成功.その時の王はしばらくして処刑.
それ以来,この国は完全に魔王に支配されてるということだ.これが「闇の大進行」だ.
前半は「サンドラの歴史」,後半はゲン爺の話から僕が知った事.
それにしても,なぜゲン爺はこんな詳しいんだろうか…謎だ.
タキ「………」
このままいくと,どうなるんだろう…
全ては闇に飲まれて…お終いなのかな…
風(タキ…)
タキ(どうしたの?)
風(答えよ…お前は今,何をしたい?)
タキ(何をって…できる事なら,闇を消してみたいとは思うけど…)
風(答えるのは一度のみ.質問は一切受け付けん.進めば予測期限不可能の地獄,退けばつかの間の天国と心得よ.)
タキ(え…?)
それは,あまりにも唐突で.
それは,あまりにも以外で.
そして,あまりにも重過ぎると思った.
風(お主は今,始まりの位置に立った.答えよ.未来を変える戦いに身を投じるか,身を引くか.」